「Half Mirror」は、2003年ごろから2006年にかけて撮影したスナップ写真を、当時大阪仙場にあったGallery Space Rondishで2006年に開催された個展に合わせ、まとめたシリーズだ。ギャラリー主催の金谷仁美さんに撮りためた写真を見てもらいながら、いったいどうやって写真を選び構成すればよいのか、途方に暮れたことを覚えている。わたしは夜間の写真学校を卒業したばかりで、取り組むべきテーマも、自分が属する共同体への問題意識も、自分の身体と心が発する声にも無頓着だったが、見つめると見つめ返す他者たち、モノの表面と景色に強く惹きつけられていた。
「森のなかで私は幾度も私が森を見ているのではないと感じた。樹が私を見つめ、私に語りかけているように感じた日もある・・。 私は、と言えば私はそこにいた、耳を傾けながら・・。画家は世界によって貫かれるべきなので世界を貫こうなどと望むべきではないと思う・・。私は内から浸され、すっぽり埋没されるのを待つのだ。」(モーリス・メルロ=ポンティ『眼と精神』滝浦静雄、木田元・訳、みすず書房、1966年)
この画家アンドレ・マルシャンの言葉に覚える強い共感は、撮り始めて四半世紀が過ぎた今も少しも変わらない。眼に映る世界の無限の複雑さ──それをどうして「見た」などと言えるのか。カメラは、視る/視られるものの主客を翻し/翻されながら、世界がわたしを貫くためのプローブであり、半透明にわたしの姿を映すハーフミラーである。
(2026年6月)